ボトル

good night mare

エロ本を買った日

 

人のセックスを笑うな」という小説がある。

山崎ナオコーラさんの作品で、いまから14年ほど前に映画化され、公開された。

 

当時たいへん話題になったので、題名を知っている人も多いのではないか。

 

私がその小説と出会ったのは、14歳の時だ。

その頃の私はBOOK OFFにドハマりしていた。

それはもう、異常者のようにBOOK OFFに通い詰めており、土曜日は家庭教師ヒットマンREBORN!のアニメが終わった11時からおもむき、満足するまで立ち読みした後帰宅し、遅めに昼食をとった後もう一度BOOK OFFに行って漫画を読んだ。

他にやることがなかったのかもしれない。

 

自動ドアだけがガラスだ。本屋には日光が入らない。

仕方がない。本が傷んでしまうから。

しかしBOOK OFFは入ったとたん、明るくて暖かい。

 

BOOK OFFは最高だ。

金のない私の前に、何でも出現させるような力があった。

同じ棚に行き、同じ本を手に取り、毎度最初から読んだ。

何度も読んで気に入ったら、買った。

 

同じコンテンツを何度もしがむ癖がついてしまったのは、こういう時間があったことに深く関連しているのではないかとふと思う。

 

 

そういうわけで、本は多く持たないが読書家という、昨今「作家に直接金を落とすべきべき」論の流行するインターネットでは軽蔑されかねない少女が、1冊だけ、1ページも開かぬまま購入した小説がある。

 

それが「人のセックスを笑うな」だ。

 

その背表紙は思春期の私の目をとらえて離さない。

本棚に行儀よく並ぶ、人の手あかのついた物語が一瞬で脇役になってしまう。

 

「セックス」

 

衝撃的な言葉だ。

私は「人のセックスを笑うな」のさしてある本棚の前を1時間ほどうろついた。

そのあと、「人のセックスを笑うな」の両隣にあった本を抜き、ぱらぱらめくった後、元通りに戻した。

 

なにやってんだ私は。

 

その日はなにも買わずに帰った。

 

次にBOOK OFFに行ってあの本があったら読もう。

でもエロだから店員さんに見つかったらやばいかな。

親に電話されるかもな。触るだけならセーフかな。

あれ?あれってもしかしてそもそも18禁のコーナーにあるべき本なんじゃないのか?

あーなんだ、謎が解けたわ。どうりで不自然なわけだわ。

次行ったとき、店員さんが気付いて場所移動してるかもな。

なんなら「ここにエロ本がありますよ」と報告してもいいかもしれない。

……いや、無理だ。エロ本の報告はできない。

なんで見つけたのか聞かれたら答えられない。

逮捕されるまである。いやされないだろうけども。わかってる、わかってんだよ。

……でも仮によ?私が逮捕されなかったとしても、店員さんはどうなる?

未成年にエロ本を触らせた罪に問われはしないだろうか。

だとしたらマジで申し訳ないよな。

店員さんが捕まらないうえ、18禁コーナーにあの本を戻す方法があるはずだ。

自分で18禁のコーナーの近くにもっていくのはどうだろうか。

絶対見つからないように……。

……そうだ、あの本の両サイドにあった本を一緒にこう、「人のセックスを笑うな」をサンドするかたちで3冊一気に本棚から抜けばよいのでは?

天才だ……これしかないわ……。

私のおかげでBOOK OFFの治安は完全に守られたというわけ。

 

goodnight……!

 

 

翌日、走ってBOOK OFFへ向かった。

その足取りはさながら勇者のように気高い。

人のセックスを笑うな」までわき目もふらず、一直線だ。

 

そして目的の本棚へ到着。

十分周りを警戒して、昨日立てた作戦通り3冊まとめて本を抜……

 

抜けない……!?

抜けないじゃん。

本棚想像よりギッチギチじゃん。

いやでもね、いうて。いうて抜ける。

ほらほらほらほら!いい感じ!ロッククライミングみたいに指先力入れて!

そうそうそうそう!いけいけいけいけ!

 

抜け抜け抜け抜け!!!!

 

 

 

バーーーーーーーーーーン!!!!

 

次の瞬間、私の足元は本だらけになっていた。

本棚に詰まっていた本たちが大きな音を立てて20冊程度床に落ちたのだ。

 

落下した本の冊数自体は大したものではなかったが、少し大判のハードカバーの本も交じっており、静かなBOOK OFFに響いた音は決して小さくなかった。

 

「お怪我無いですか!?」

音に反応してすっ飛んできた店員の声が聞こえる。

「あ、はい、あの、すみません。」

親指と人差し指に入っていた力が抜ける。

3冊の本を抱えなおし、店員と目が合う。

 

「あの~」

やっべ~。

「こちら私のほうで直しておきますので大丈夫です。

そちらはお買い上げ予定の本でしょうか?」

「はい」

とっさに訳の分からない言葉が口をつく。

「でしたらこちらでお預かりいたしますので。」

「え?はい、ありがとうございます。」

自分は……なにを?

「レジこちらになります。どうぞ。」

これ以上仕事を増やすなと言わんばかりの店員に誘導され、あっというまに「人のセックスを笑うな」を挟んだ3冊が雑に袋に放り込まれる。

 

「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」

 

まぶしいほど日光の差す自動ドアが開き、私は押し出されるように外に出た。

 

 

何何何何???????

何が起こったの?????

 

私今「人のセックスを笑うな」を買ってしまった?????

 

エロ本買っちゃった???????

 

 

そこからの記憶、ぶっちゃけない。

どうやって家に帰り着いたのか覚えてない。

覚えていないけれども、どうにか家にたどり着き、そ~っと「人のセックスを笑うな」の表紙を眺めた。

なでたり、下からのぞいたりした。

 

冷静になってみると、これそんなにエロい本じゃないかもしれないな。

いやでも、官能小説かも。

スポニチのエロのコーナーで見たやつみたいなのが載ってるのかも。

もしくは女性自身のエロのコーナーのやつが載ってるのかもしれない。

 

読みたいけど読むのが怖すぎる。

読んであんまりエロくなかったらいやだし、読んでめちゃくちゃエロくてもいやだ。

あ~~~~~~~

やだやだやだやだやだ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!

 

 

 

というわけで、25歳になった今も「人のセックスを笑うな」を読めていない。

読まないという選択をし続けることで私にとって最高に価値の高いエロ本。

 

それが山崎ナオコーラ著「人のセックスを笑うな」だから。

 

 

 

※これ読んでリプライであらすじ送ってきたやついたら絶対殺します。